目次
障害年金は、それぞれ「1」~「3」の条件のすべてに該当する方が受給できます。
- 初診日要件
- 保険料納付要件
- 障害認定日要件
例えば、主治医の先生から「障害等級1級」に該当する診断書を書いて下さっても、保険料納付要件を満たしていないと、障害年金は受給できません。(20歳前傷病の方を除く)
こればかりは、ご依頼いただいても残念ながら、物理的にどうしようもできません。
こういう状況に陥らないためにも、事前に「障害年金制度を知る」必要があると思います。
今回は、3つの受給要件をそれぞれ掘り下げて解説させていただきます。
初診日要件
障害の原因となった病気やけがの初診⽇が、次のいずれかの間にあること
- 国民年金の加入期間
- 20歳前または日本国内に住んでいる60歳以上65歳未満で年金制度に加入していない期間(⽼齢基礎年⾦を繰り上げて、受給している⽅を除く)
- 厚生年金保険の被保険者期間
初診日の定義と例示
初診日とは、障害の原因となった病気やけがについて、初めて医師または歯科医師(以下「医師等」という)の診療を受けた日をいい、具体的には次のように取り扱われています。
- 初めて診療を受けた日(治療行為または療養に関する指示があった日)
- 例:障害の原因となった傷病について、現在かかっている医師等にはじめて診療を受けた場合
- 一番初めに医師等の診療を受けた日
- 例:同一の傷病で転医があった場合
- 再度発症し、医師等の診療を受けた日。ただし、過去の傷病が完全に治っていないと判断される場合は過去の傷病で初めて診療を受けた日
- 例:過去の傷病が治癒し(社会復帰し、治療の必要のない状態)、同一傷病で再度発症している場合
- 対象傷病と異なる傷病名の初診日
- 例:傷病名が特定されておらず、対象傷病と異なる傷病名であっても同一傷病と判断される場合(心因反応→うつ病)
- じん肺と診断された日
- 例:じん肺症(じん肺結核を含む)
- 最初の傷病の初診日
- 例:障害の原因となった傷病の前に「相当因果関係」があると認められる傷病がある場合
- 出生日
- 例:先天性の知的障害(精神遅滞)
- 出⽣⽇
- 例:知的障害を伴う発達障害
- 通常の初診⽇
- 例:知的障害を伴わない発達障害
- 具体的な症状が出現し、初めて診療を受けた日
- 例:先天性心疾患、網膜色素変性症
- 出生日
- 例:先天性股関節脱臼で、完全脱臼したまま生育した場合
- 発症後に初めて診療を受けた日
- 例:先天性股関節脱臼で、青年期以後になって変形性股関節症が発症した場合
- 接骨院、はり、きゅう、マッサージの施術日は初診日になりません。
- 健康診断を受けた日(健診日)は、原則初診日として取扱いません。
ただし、 初診時(1番最初に受診した医療機関)の医師の証明が添付できない場合であって、医学的見地からただちに治療が必要と認められる健診結果である場合については、請求者から健診日を初診日とするよう申立てがあれば、健診日を証明する資料(人間ドックの結果等)を求めたうえで、初診日を認めることができることとなっています。
相当因果関係
「前の疾病や負傷(先発傷病)がなかったら、後の疾病(後発疾病)は起こらなかったであろう」と認められる場合は、相当因果関係ありとみて、前後の傷病を同一傷病として取り扱います。障害年金の請求を行う上で相当因果関係があるとされた場合は、先発傷病の初診日までさかのぼって証明する必要があります。
なお、障害年金における相当因果関係は、「先発が疾病や負傷」で「後発が疾病の場合のみ」とされています。後発が負傷の場合は、相当因果関係はないものとして取り扱います。
具体的に例示されている相当因果関係は、次のとおりです。
先発傷病 | 後発疾病 |
糖尿病 | 糖尿病性網膜症 |
糖尿病性腎症 | |
糖尿病性壊疸(糖尿病性神経障害、糖尿病性動脈閉鎖症) | |
糸球体腎炎(ネフローゼを含む) | 慢性腎不全 |
多発性のう胞腎 | |
慢性腎炎 | |
肝炎 | 肝硬変 |
結核 | 聴覚障害(化学療法の副作用) |
輸血の必要な手術 | 肝炎(手術等による輸血) |
ステロイド投薬が必要な傷病 | 大腿骨頭無腐性壊死(ステロイド投薬による副作用) |
事故による傷病 | 左記傷病による精神障害 |
脳血管の傷病 | |
肺疾患 | 呼吸不全(肺疾患の手術ののち) |
転移性のがん | 転移後のがん |
相当因果関係なしとして同一の傷病と認められない具体例は、次のとおりです。
先発傷病 | 後発疾病 |
高血圧 | 脳出血 |
脳梗塞 | |
近視 | 黄斑部変性 |
網膜剥離 | |
視神経萎縮 | |
糖尿病 | 脳出血 |
脳梗塞 |
発達障害や知的障害と精神疾患が併発する場合の取扱い
知的障害や発達障害と他の精神疾患を併発しているケースについては、障害の特質性から初診日及び障害状態の認定契機について次のとおり整理するが、認定に当たっては、これらを目安に発病の経過や症状から総合的にするものとされています。
<発達障害や知的障害と精神疾患が併発する場合の一例>
厚生労働省年金局「知的障害や発達障害と他の精神疾患が併存している場合の取り扱い(情報提供)」
前発疾病 後発疾病 判定 うつ病 発達障害 診断名の変更
(同一疾病)統合失調症 発達障害 うつ病 同一疾病 発達障害 神経症で精神病様態 同一疾病 知的障害(軽度) 発達障害 同一疾患 知的障害 うつ病 同一疾患 知的障害 神経症で精神病様態 別疾患 知的障害 統合失調症 前発疾患の病態として出現している場合は、同一疾患(確認が必要) 発達障害 知的障害 その他精神疾患 別疾患 発達障害 *あくまでも目安です。
平成23年7月13日
<上記の表を上から順に解説。初診⽇はいつ?>
- うつ病又は統合失調症と診断されていた者に後から発達障害が判明するケースについては、そのほとんどが診断名の変更であり、あらたな疾病が発症したものではないことから別疾病とせず「同一疾病」として扱う。
→初診日は「うつ病」「統合失調症」 - 発達障害と診断された者に後からうつ病や神経症で精神病様態を併発した場合は、うつ病や精神病様態は、発達障害が起因して発症したものとの考えが一般的であることから「同一疾病」として扱う。
→初診日は「発達障害」 - 知的障害と発達障害は、いずれも20歳前に発症するものとされているので、知的障害と判断されたが障害年金の受給に至らない程度の者に後から発達障害が診断され障害等級に該当する場合は、原則「同一疾病」として扱う。
例えば、知的障害は3級程度であった者が社会生活に適応できず、発達障害の症状が顕著になった場合などは「同一疾病」とし、事後重症扱いとする。
→初診日は「知的障害(出生日)」
なお、知的障害を伴わない者や3級不該当程度の知的障害がある者については、発達障害の症状により、はじめて診療を受けた日を初診とし、「別疾病」として扱う。
→初診日は「発達障害」 - 知的障害と診断された者に後からうつ病が発症した場合は、知的障害が起因して発症したという考え方が一般的であることから「同一疾病」とする。
→初診日は「知的障害(出生日)」 - 知的障害と診断された者に後から神経症で精神病様態を併発した場合は「別疾病」とする。
→初診日は「神経症で精神病様態」
ただし、「統合失調症(下記6)」の病態を示している場合は、統合失調症が併発した場合として取り扱い、「そううつ病(気分(感情)障害)(上記4)」の病態を示している場合は、うつ病が併発した場合として取り扱う。 - 知的障害や発達障害である者に後から統合失調症が発症することは、極めて少ないとされていることから原則「別疾病」とする。
→初診日は「統合失調症」
ただし、「同一疾病」と考えられるケースとしては、発達障害や知的障害の症状の中には、稀に統合失調症の様態を呈すものもあり、このような症状があると作成医が統合失調症の診断名を発達障害や知的障害の傷病名に付してくることがある。したがって、このような場合は、「同一疾病」とする。
→初診日は「発達障害」「知的障害(出生日)」
保険料納付要件
初診日の前日において、初診日がある月の2カ月前までの被保険者期間で、国民年金の保険料納付済期間(厚生年金保険の被保険者期間、共済組合の組合員期間を含む)と保険料免除期間をあわせた期間が3分の2以上あることが必要です。
<解説>
被保険者期間は、20歳から初診日がある月の2ヵ月前(令和4年7月)までの15ヵ月です。
このうち、保険料納付済期間および保険料免除期間は、12ヵ月です。
上記の例では、保険料納付済期間および保険料免除期間が3分の2以上(10 ヵ月以上)あるので、納付要件は満たしています 。
保険料の納付要件の特例
実務においては、まず確認がしやすい「特例」の要件で確認します!
初診日が令和8年3月末日までにあるときは、次のすべての条件に該当すれば、納付要件を満たすものとされています。
- 初診日において65歳未満であること
- 初診日の前日において、初診日がある月の2ヵ月前までの直近1年間に保険料の未納期間がないこと
<解説>
初診日がある月の2ヵ月前までの直近1年間(令和3年8月から令和4年7月まで)に保険料の未納期間がないので、納付要件は満たしています 。
*初診日が平成3年5月1日前の場合は、納付要件が異なります。詳細は、当事務所までご相談ください。
障害認定日要件
障害認定日の原則
障害認定日において、障害等級表に定める障害の状態であること。障害認定日とは、障害の状態を定める日のことで、その障害の原因となった病気やけがについての初診日から1年6ヵ月を過ぎた日。
障害認定日の特例
次に掲げる日が、初診日から1年6ヵ月以内にあるときは、その日が障害認定日となります。
傷病が治った日(症状固定した日)に該当する事例は、次のとおりです。
「傷病が治った場合」とは、器質的欠損若しくは変形又は機能障害を残している場合は、医学的に傷病が治ったとき、又は、その症状が安定し、長期にわたってその疾病の固定性が認められ、医療効果が期待し得ない状態に至った場合をいう。(出典:日本年金機構 障害認定基準)
診断書 | 傷病が治った状態 | 障害認定日 | 障害等級の目安 |
聴覚等 | 喉頭全摘出 | 喉頭全摘出日 | 2級 |
肢体 | 人工骨頭、人工関節を 挿入置換 | 挿入置換日 | 上肢3大関節又は下肢3大関節に人工関節を挿入置換した場合、原則3級 |
切断又は離断による 肢体の障害 | 切断又は離断日 (障害手当金は創面治癒日) | 1肢の切断で2級、2肢の切断で1級、一下肢のショパール関節以上で欠くと2級、リスフラン関節以上で欠くと3級 | |
脳血管障害による 機能障害 | 初診日から起算して6ヵ月を経過した日以後 (※1) | ー | |
呼吸 | 在宅酸素療法 | 開始日(常時使用の場合) | 3級(常時:24時間、使用の場合) |
循環器 (心臓) | 人工弁、心臓ペースメーカー、植え込み型除細動器(ICD) | 装着日 | 3級 |
心臓移植、人工心臓、補助人工心臓 | 移植日又は装着日 | 1級(術後の経過で等級の見直しがある) | |
CRT(心臓再同期医療機器)、CRT-D(除細動器機能付き心臓再同期医療機器) | 装着日 | 重症心不全の場合は2級(術後の経過で等級の見直しがある) | |
胸部大動脈解離や胸部大動脈瘤により人工血管(ステントグラフトも含む)を挿入置換 | 挿入置換日 | 3級(一般状態区分が「イ」か「ウ」の場合) | |
腎臓 | 人工透析療法 | 透析開始日から起算して3ヵ月を経過した日 | 2級 |
他 | 人工肛門造設、尿路変更術 | 造設日又は手術日から起算して6ヵ月を経過した日 | 左記のいずれか1つで3級 (※2) |
新膀胱造設 | 造設日 | 3級 (※2) | |
遷延性植物状態 | 状態に至った日から起算して3ヵ月を経過した日以後 (※3) | 1級 |
※1 脳血管障害により機能障害を残しているときは、初診日から起算して6ヵ月経過した日以降に、医学的観点からそれ以上の機能回復がほとんど望めないと認められるときに認定されるため、請求すれば必ず認められるものではありません。
※2 人工肛門を造設した場合、次のいずれかに該当する場合は2級とし、障害認定日は次のとおり取り扱います。
- 人工肛門を造設し、かつ、新膀胱を造設した場合の障害認定日は、人工肛門を造設した日から起算して6ヵ月を経過した日又は診膀胱を造設した日のいずれか遅い日(初診日から起算して1年6ヵ月以内の日に限る)とします。
- 人工肛門を造設し、かつ、尿路変更術を施した場合の障害認定日は、人工肛門を造設した日又は尿路変更術を行った日のいずれか遅い日から起算して6ヵ月経過した日(初診日から起算して1年6ヵ月以内の日に限る)とします。
- 人工肛門を造設し、かつ、完全排尿障害状態にある場合の障害認定日は、人工肛門を造設した日又は完全排尿障害状態に至った日のいずれか遅い日から起算して6ヵ月経過した日(初診日から起算して1年6ヵ月以内の日に限る)とします。
※3 遷延性植物状態の障害認定日を判断する際の起算日は、下記の診断基準の6項目に該当した日になります。
<遷延性植物状態の診断基準の6項目>
- 自力で移動できない
- 自力で食物を摂取できない
- 糞尿失禁をみる
- 目で物を追うが認識できない
- 簡単な命令には応ずることもあるが、それ以上の意思の疎通ができない
- 声は出るが意味のある発語ではない
20歳前傷病の障害基礎年金の場合
初診日が20歳前にある場合は、「20歳に達した日」か「初診日から1年6ヵ月を経過した日(またはその期間内に治った日)」の遅い日が障害認定日となります。